私が泣いてる間も

先生はずっとごめんを繰り返していた



悔しい

むかつく

悲しい


そんな感情が私の中に居座り続けた



「先生、私…もう逃げないから…」



保健室にあったティシュで鼻水と涙を拭いて

そう告げると

しっかりした目で私を見た



「あぁ、それでいい」



「だから、先生も逃げないで」



私の言ってる意味

きっと先生には分からないだろう



自分でもよく分かってない



だって今気づいたんだから

先生への気持ちが何なのか



私は今更になってやって来た

恥ずかしさに顔が赤くなった


いや、もしかしたら

それだけではないのかもしれない



「先生…運んでくれてありがとう…」



「うん」



「重かったでしょう…?」



「全然!むしろ軽すぎだ。ちゃんと食ってるのか?」



「ふふっ…ちゃんと食べてるよ」



あぁ、楽に笑える




「そうか?」



「うん」



「もう脚痛くないか?」



「平気だよ、ほらっ」



私は立って見せた


ちょっと歩いて

「ね?大丈夫でしょ?」

と言いかけようとした時、

私の口からは違う言葉が出た




「痛っ…」



足首に鈍い痛みが走った


私はそのままそこにしゃがみこんでしまった



「どうした!見せて見ろ」



急いで駆け寄ってきた先生に

足首を見せた


さっきまでなんともなっていなかったのに

見ると青くなっていた




「転んだ時、捻ったかな」



「そうかも…」



先生は私を椅子に座らせ

湿布を探しに行った



「湿布…湿布…」



湿布を連呼しながら探している姿が

なんだかおかしかった



「あったあった!」



見つけると喜んでいた

子供なのか、大人なのか…



クスリと笑うと先生は

不思議そうな顔をしていた



「これで大丈夫か?」


「はい、ありがとうございます」



湿布は冷たく気持ちが良かった

先生が貼ってくれたのにも

意味があると思う



その後も先生と少し話した


初めてこんなに先生と話した


今までの自分なら

きっとこんなに話せなかったし、

笑うことも出来なかったと思う




話していると

アナウンスが入った



『これにてすべての競技が終了しました。これより閉会式を行います。全校生徒はグラウンドに並んでください。並びに、先生方は本部までお集まり下さい』



先生呼ばれた…

行かないといけないんだよね



先生の顔を見ると

何か悩んでいるようだった


そしてイタズラっ子のように

私に笑いかけて



「行かなくてもいいか!」



って



「えぇ!?ダメですよ、行ってください!」



ダメに決まってるじゃん!

先生行かないと!



でも先生が言った時

ちょっと嬉しくて安心している自分もいた



「えーやっぱり?」



「はい、行ってください。怒られますよ」




そう言ってなんとか先生を立たせると

背中を押した




「花奈、ここにいろよ?」



「え?」



「いなくなると心配するからな、先生が」




そんな言葉にいちいち高鳴る鼓動

でも先生はちゃんと生徒と先生の壁を作る

最後に『先生が』って言葉がその証拠



「分かりましたから、早く行ってください!」



赤くなる顔を誤魔化すように

語尾を強くして部屋から押し出すと

勢いでドアも閉めてしまった



「はぁ…」



ドアに背中をつけると

そのままその場へ座り込んだ



「これからどうしたらいいの…」



先生の貼ってくれた湿布を擦りながら

独り言を呟いた