「よし、これでいいわ!特に深い傷が無かったのが幸運かしらね」


「ありがとうございます」



柳田先生に連れられて保健室にやってくると

後から来た保健の先生に

消毒をしてもらってガーゼにテープ

それから包帯を巻いてもらった



傷は思ったほど深くなく

病院へは行かなくて大丈夫そうだった



「ありがとうございました」



柳田先生もお礼を言っていた


それは担任としてだよね?

当たり前か



「しばらく安静にしていてね?傷口が開いちゃうから」


「はい」



私は大人しく返事をしておいた



「先生はグラウンドの方に戻ってください。ここは俺がいるんで」



「そうね、ここは柳田先生に任せるわね」



そう言って保健の先生は部屋を出ていった




気まずい…


先生の顔もまだ見れてない


どうしたらいいの…




「花奈」




名前を呼ばれて身体がビクッとする


運んでもらった時とは違うドキドキが

私を襲った



先生は私の前の椅子に座った

その距離は一メートルもない



怒られるっ!



そう思って下を向いたまま

目を強く瞑った




「花奈、こっち見てごらん」



その声に私は負けた

そんな優しい声するなんて反則だ


こんなこと前にもあった


あの時は廊下だった


優しくてあったかくて

それから…




悲しそうな、あなたの瞳




「やっと見てくれた…」




そう言って柔らかく安堵したように

笑う先生




「俺の心配してる気持ち伝わるか?」




「心配…?」




怒ってるんじゃないの?



「ここ最近…いや、ずっと、元気無さそうにしてるから心配なんだ」



ずっと、私が…?



「そしたらこんな事が起きて」



先生は潤んだ目をそらさずに

私に向けて続けた



「俺、担任として頼りないか?」



「…っ!」



言葉に詰まった


なんて言えばいいか分からなくて


頼りない訳じゃない

だけど、私の変な気持ちを言う訳にもいかない



でも


でも



あなたがあまりに寂しそうに言うから

私はこう言うしかなかった





「頼りなくなんか…ないです」




目をそらすことも出来ず

声をふり絞って出た言葉は

そんな単純な言葉だけだった



ただ、先生が悲しくなるのは違う気がした

だって何もしてないじゃん


悲しくて、寂しいのは




私だよ





目をそらしたいのに

それが許されない、この状況


私は涙が流れるのを必死で我慢した


だけどダメだった

先生の次の一言で流れてしまった





「そんなこと言わせて、ごめんな…」





先生は何に謝っているの?

ごめんだなんて言わないで

私が悪いことしてるみたいだよ



「うっ…っ…先生の…バカぁ」



私は先生の胸を叩いていた

何回も痛くない程度に



先生は私の頭を撫でるだけ


抱きしめてなんてくれない


目の前の女の子が泣いてるんだよ?

それぐらいしてよ…


そんなどうでもいいことに対しても

涙が出た



これが

生徒と先生の壁なんだって知って

想像以上に傷付いた



こんなに近いのに


近くにいるのに


彼は私に近づいてくれない



絶対にその壁からこっちには


来ないんだ