「どうしたの、花楓」
「…私の家は、ここじゃないみたいだから」
「…奈々ちゃんのことね」
母は気付いていた。私が彼女を良く思わないことに。
けれど、ならどうしてわざわざ私が帰ってくると分かっている日に中に入れたの?
そんな自分よがりな思考に駆られる。
「私が気付かないとでも思った?この部屋に、あの子、入れてたでしょう」
「…え?そんなはずは…」
「…なら葵か父さんのどちらかが使っていいとでも言ったのかもね。配置だって変わってるし、…なくなってるものが多い」
私のその言葉に驚く母。
大したものは置いて行ってなかったから、別に何の支障もないけれど、…気分が悪いのは確かだ。
「とにかく、帰る」
「ならもう遅いんだし、明日でもいいじゃない」
「帰ってきたらって言ってくれた母さんには申し訳ないけど、気分悪いから。…これなら、東京の方がマシだもの」
私がそう言うと、母は下に降りる。
…怒らせちゃったかな、と思ったけれど、今の私にはそんなもの気にする余裕なんてなかった。
実は今回有給を使って休んだけれど、実家に帰って来るつもりはなかった。
東京の自分の家で、ゆっくり休む予定だった。
けれど、たまたま母から掛かってきた電話で、私の様子がおかしい事を悟った母が、『久しぶりに帰って来ない?』と言ってくれたから帰って来たのだ。
…やっぱりこんなことなら、いつものように家で引きこもっていたらよかった。
そう思いながら、私は自分の荷物を2階から降ろしていると、

