徒花と蝶





落ち着いた私に、母がキッチンから水を持ってきてくれて、喉を通す。
そして、帰ってこないのを心配した父が『大丈夫か?』と言いながら来る。

けれどそれは無視した。



「……母さん」
「…どうしたの、花楓」

「申し訳ないけど、駅まで送ってくれない?」



大人げないとか、そんなことはもはや関係なかった。

とにかく、私は何の気兼ねもなく、私の傷を癒してくれる、癒せる場所に行きたかった。
こんな息のつまる場所なんて、居たくなかった。



「何を言っているんだ、花楓」
「私、東京に帰る」



『待て!花楓!』と制止する父を背に、私は2階に上がる。
母が後ろからついてくる。

わざわざ、有休を取ってまで来るような場所じゃなかった。

そんな後悔を胸に、私は充電中のスマホの線をコンセントから抜く。