ロビーに出ると、先程よりは明るい照明に瞬きをする。


「ありがとうございました」


 ガラス扉を開けて、制服姿の店員さんがニッコリと微笑んで入口に立っていた。

 その脇を無言で擦り抜けようとした時、ガラス扉に映った何かに美奈は立ち止まりかける。



「立ち止まるな。振り返るな」


 圭はそれだけ言うと、美奈の手を掴んだまま映画館から連れ出す。


「ちょっと、兄貴! 待ってよぉ!」

 圭は美奈も驚く程の早足で歩き、置いて行かれた沙織たちは慌てて追い掛けてくる。

 そんな彼女たちに、圭は振り返ってニヤリと笑った。


「足短いんだよ。後はコイツ送ればいいんだろう?」

 沙織と駿は顔を見合わせて、それから満面の笑みで頷く。

「さすが兄貴! 解ってるじゃん!」

「帰る時に連絡しろ。迎えに行く」

 その言葉に沙織たちは歩調を緩め、圭は何を思ったのか、商店街からは少し離れた小さな路地に足を踏み入れた。


「あ……あの?」

 商店街の裏側は、民家らしい建物が並ぶ狭い道だ。ちらほらと漏れてくる明かりは、人がいる証拠でもある。


「あ……人、住んでるんだ」

「まぁ、店は潰れても、家まではなかなか手放せないだろうしね」

 圭はやがてゆっくりと歩調を緩め、それから小さく溜め息をついた。


 それから、何となく無言で歩き続ける。


 様子がおかしい。

 美奈は決して鋭くはないが、圭の様子は明らかにいつもと違っていた。


「あ……あの?」

「聞いた話だと」

 同時に呟いて、同時に顔を見合わせる。


「ど、どうぞ」

 一瞬の間を置いて圭の口が開いた。

「……俺が聞いた話だと、あの映画館の噂は一つじゃないんだ」

 ポツリポツリと呟く圭を、美奈は黙って見上げる。