指先が向かうのはやはり、箱だった。
ああ、これは先生が置き忘れた道具だったんだ。

私は先生の指先をじっと見つめる。
先生の顔はすぐ近くにあるのに、素直になれない私は先生の顔を見ることはできなかった。

俯く私に先生は1人言のように言う。

「箱に入れておいたはずなのに、カッター無くなってる…」

先生は自然と私のほうを見る。
まるで"知らない?"と言いたげな表情だった。
その表情を見て私は、そっと指を指す。

その先には先程のカッターが落ちている。

「あーあった。」

そう言って先生は気だるそうにカッターを拾い上げた。
カッターを箱へとしまうと先生はまた私のほうを見た。

「授業行くから、田中さんも授業、出なさいよ」

そう言って先生は視聴覚室を出ていった。

-また私は無機質な部屋に残される。