変わらない世界

昼休み、俺は歯ブラシと歯磨き粉を左手に持ち職員室のドアを開けた。

すると、目の前には田中が立っていた。
時計を見ると昼休みが終わる５分前。急いで来たのか彼女は肩が震え、息切れしていた。

「あの…先生、この前の日曜のこと担任に言いましたか?」

田中がなぜこんなことを聞くのか分からなかった。曖昧な記憶をたどってみるがそんなこと言った覚えはない
あ…そういえば――。

「そういえば、他の先生には話したよ」

廊下をいろんな生徒や教師が通る中で、彼女はただ１人段々と顔色が悪くなっていた。
周りの目を気にしているのか、度々彼女の大きな瞳はキョロキョロと動く。

「私、そのことが駄目だったなんて知らなかったんです。もしも先生が他の先生から何か言われてたらどうしようと思って…」
そう言った彼女の声は震えて弱っていた。
実際は他の同僚からは何も言われていない。そんなことをわざわざ言いにくる何てよほど心配だったのだろうか…。
そんな時、ちょうどチャイムが鳴った。
いつまでも響くチャイムの中で俺は田中に

「大丈夫、何も言われてないから」

と静かに言った。
彼女はほっとしたのかいつもと同じ様に俺に微笑んだ。