別教室の前の廊下まで来た有希は2.3歩足を進ませたところでドアに手をかけた。
ドアの窓ガラス腰に見える中の様子はで、女性教師が椅子に座り待っているところだった。

「失礼します」

教室に入ったとき、廊下と同じ冷たさを肌に感じた。有希の小さな予測は的中した。
そして有希は女性教師の座る席の前の席に座る。
女性教師は有希が席に座ったことを目で確認すると口を開き、こう言った


「数学の成績、なかなか上がらないみたいだけど」

有希に向けられた視線はけして優しい笑みではなかった。
有希は自分でも平均点を下回っていることを分かっている。ただ、がむしゃらに頑張っても前に進まないだけ。
それに、よりによって数学担当の教師が大嫌いなこの女性教師だ。
向こうもなかなか自分に懐こうとしない有希を毛嫌いしている。

そのことを有希は何となく気付いていたものの、そのことは誰にも、何も言わなかった。