電話する、しない、する、しない……する。


このボタンを押せば、彼に繋がるのに。
彼の声が聞けるかもしれないのに。

何度、ボタンを押そうと
試みたことだろう――。


ボタンを押そうとする指が震える。


―電話する、しない、する、しない、する―



私は意を決して
発信ボタンを押した。



プルルルルルルル


発信音は数秒間続く。
遅いな、なんて諦めて電話を切ろうとした。

そのとき、何度目かのコールで発信音は途絶えた。





「もしもし。どーしたー?」


貴方の声だ。
携帯電話の向こうからは
ずっと聞きたかった、あなたの声がした。


あなたは相変わらず、
「どーしたー?」とのんびりとした口調で私に問い掛ける。




「先生、元気?」


「ああ、元気だよ」



私と貴方はお互いに他愛のない話をする。
それは、私の大学生活についてだったり…。
中学の話だったり。


声が聞けるだけで
幸せだった。