男はそう言って自転車に乗らず、早歩きでその場から逃げた。



 後ろを振り返らず、一目散に。



 恐怖で体中から汗が出て、夏だというのに寒気すら感じていた。



 俺は見られていた。



 男は2週間前までスーツを着て働いていたのだ。



 2階の住人は全て男性だから、もし中年女性が住人だとしたら、1階に住んでいる。



 俺がスーツ姿で部屋を出入りするところが見える位置・・窓からか?



 いや、それなら顔も見られているはずだから、あんなことは聞かないはずだ。


 顔が見えず、体が見える位置。         


 男ははっとした。



 思いつく位置は一ヶ所しかない。



 2階に上がる階段のところに天井までの大きな窓がある。



 そこを見られた可能性があって、それを見ることができるのは、男の部屋の反対側の部屋側の1階の部屋。



 つまり2階から1階に下りたすぐの部屋だ。