その身は凍る

 翌日男は目を覚ますと、頭を左右に振って辺りを確認した。



・・いるわけねぇよな。



 時計を見ると時刻は朝6時前。



 昨日寝たのは夜8時前だから、随分と長い間眠りに就いていたことになる。



 男は汗を拭って全裸になると風呂場へ向かった。



・・・疲れたせいか。



 洗面台に手をついて、鏡に目を向けると、背後にあの中年女性な姿が目に映り込んだ。



 咄嗟に後ろを振り返り構えたが、台所の小窓から光が差し込んでいる懐かしい光景だった。



 恐怖が見せた幻だ。



 男はそう何度も言い聞かせた。



 しかしその幻は、シャワーを浴びている最中も背後に現れ、そして消えた。



 それからベッドに戻っても自分の背後に気配を感じ、男は恐怖のあまり、時刻を忘れて大家に電話を掛けた。



 正味3分程度経ってから、電話を切った男は携帯電話を握り締めたまま震えた。