その身は凍る

 1階に着くと男は止まり、静かに深呼吸を始めた。


 目の前に広がるのは、いつものと変わらないもの。


 しかし男の目には2階に続く階段と、その階段の始まりの左側の部屋が、何か妙なものが映った。



 黒いような、歪な、淀んだなにかだ。



 男は恐怖を振り払うように額の汗を腕で拭い、ゆっくりと足を踏み出した。



 中年女性が住んでいると推測した部屋の前を通り過ぎるとき、そこ覗き穴から見えないようにと顔を逸らしながら階段を上っていった。



 そして踊り場で一瞬足を止めたが、窓から見えるだろう範囲を避けるように、早足で2階に上がっていった。



 2階に上がると、そっと体を逸らして、問題の窓を見てみた。



 足音は立てていない。



 見ているわけない。



 男はそう自分に言い聞かせた。