★【Side.一ノ瀬】
すっと、腰のあたりに巻きついていた腕が軽くなる。

朝倉は、安心しきった面して、コテンと、眠りこけてしまったのだ。

(幼なじみとして喜べばいいのか、男として悲しめばいいのか。)

———私には、絵の道しかない。

———私は、描かずには立っていられない。

少女の悲痛な叫び声は、未だに、俺の身体で反響している。

やはり、十七にして、あの少女は、絵描きなのだ。

そのことに、妙に納得してしまっている俺がいる。

俺は、十七の少女に似つかわしくない、あの澱んだ眸が大嫌いだが、

しかし、あの眸は、きっと、絵描きの眸だ。

絵描きが、もう一人の自分に、真正面から立ち向かうときの眸なのだ。

俺は、少女らしくあどけないその寝顔にそっと呟いた。

「しっかり休めよ。おまえは、きっと、ものすんごい絵描きなんだから。」

少女の口元が、ふっと、緩んだ気がした。