———絵が、私を、朝倉 佳純という少女を形づくる全てであるのだから、

———私は、こいつの絵を見なくちゃいけない。

———それが、私が朝倉 佳純であると証明することだ。

私の決死の反撃に、

「絵を?いいわよ、見せあいっこしましょうか。私のは、ほら、そこのイーゼルんとこよ。」

〝私〟は、不敵にクスリと笑い、白木のイーゼルを手で示した。

私は、その余裕のよっちゃんな笑みをキッと睨みつけつつ、椅子を立ち、キャンバスに手を掛けた。

「一ノ瀬……?」

瞬間、手の中をキャンバスがズルリと滑り落ち、そのまま、カッタン、と床に倒れた。

ヒトの絵を傷つけるなんて、絵を描くものとして、許されないこと。

キャンバスは、絵描きの心なのだから。

ごめんなさい、いつもなら口をついてでるはずのコトバも忘れて、

私は、敗北感にうちひしがれていた。

———私には描けない。

「そうね、あんたには一ノ瀬を描けない。ヒトが描けないんだものね。いつからだっけ?そう、確か、あんたの母親が安っぽい男にくっついて家を出て行った夜からだったっけ?」

唇がふるふると震える。

〝私〟はそんな私を満足げに見遣り、耳元に残酷すぎるコトバを囁く。

「ね、言ったでしょう?あなたが、私にものすんごく似ているのよ?私が朝倉 佳純よ。」

私は、足からシュルシュル力が抜け、ペタン、と床に座りこんだ。

私は、ガラガラと崩れ落ちたのだ。