寂しさを抱いて

第三章 心恋 ③

 電車に乗って帰宅し、夕飯を済ませて一時間ほど経った時、携帯電話が光ったのですぐに矢野からのメールだと分かった私は、早速メールを開いた。
『メアド、ありがとう。これ、俺のアドレスだから友達に教えていいよ。
 高木とは席も隣だし、これからよろしくな』
 矢野のメールは顔文字も使われていない端正なものだったけれど、普段ぶっきらぼうに話す彼しか知らなかった私は、矢野から送られてきた素直な言葉になんだ初々しさを感じてふふっと笑った。
『こちらこそ、ありがとう!さっきは言わなかったけど、矢野のことが好きな友達っていうのは、うちのクラスの雪野彼方なんだ。彼方のことよろしくね』
 私は彼にそう返信する。
 すると、一〇分ぐらいしてまた彼から返信があった。
 なかなか返信の早いやつだ。
『ああ、雪野か。俺も話したいと思ってたし、とりあえずメールしてみるよ。ありがとな』
 おお、この返事はなかなか上手くいくのではないか。
 …て、何を楽しんでいるんだ、私。他人の恋愛なのに本人以上にワクワクしている自分に苦笑しながら、私は携帯を机に置いて宿題にとりかかることにした。
 それから三〇分ぐらい経った時だろうか、今日はもうメールは来ないと思っていたのに、机の上の携帯が再び光ったので、私はもう一度携帯を開いた。
 見ると、メールが二件届いている。
 一つは彼方から。どうやら予定通り矢野とメールできたらしく『高ちゃんありがとう!』と幸せそうな彼方の表情が目に浮かぶ内容だった。
「もう一つは…と」
 二件目のメールの送信者ははなぜか矢野だった。
 何だろう、彼方のことかな、と思った私は何気なく矢野のメールを開いて見た。
『…俺、さっき言い忘れたことがあったんだ。
 俺もさ…雪野じゃないけど、高木とこれから時々メールとかしたいなって…。
 その、嫌ならいいんだけど…どうだ?』
 こ、これは…。
「矢野…もしかして…」
 頭の中で最悪な、というか絶対にあってはいけない状況を想像してすぐにそれをかき消す。
 いや、矢野はただ一クラスメイトとして私と連絡をとりたいと思っているんだ、そうに決まっている。
 うんうんと勝手に頷いて解釈した私は、矢野に返信する。
『メールとか全然おっけーだよ!私も時々連絡するね。じゃあまた学校で』
 もちろん、彼方との進展を訊くためにメールするだけなんだけどね!
 私が返信してすぐにまた矢野からメールが来た。
『それは良かった、さんきゅ。おう、また明日』
 やっぱりなんか矢野、普段より可愛げがあっていいな。
 …と、いけないいけない、何を考えているんだ。私はただ彼方の恋を応援したいだけなんだから。
 でもその裏で、矢野とのメールを楽しんでいる自分がいたのだった。