恋なんていたしません!

思わぬ展開が起こってしまったけれど、結婚祝いと言う名の飲み会はお開きとなった。

フラフラと足取りがおぼつかない田ノ下さんを連れて外に出ると、
「あっ、どうも」

明るい茶色の髪の男の人が声をかけてきた。

「あっ、先日の…」

彼の顔を見た伊勢谷さんが思い出したと言うように言った。

この人が田ノ下さんの旦那さんで、先日店頭で伊勢谷さんと口論をしていた例の彼のようだ。

こんな時間――と言っても、11時を過ぎているけれど――にわざわざ迎えにくるとは、どんだけいい旦那さんをもらったんだ。

「すみません、いろいろと事情がありまして…」

伊勢谷さんは申し訳なさそうに謝ると、彼に酔っ払っている田ノ下さんを見せた。

「あー、はいはい…」

彼は察したと言うように首を縦に振ってうなずくと、
「後は任せてください」

よいしょと、田ノ下さんをおんぶした。

「では、失礼しました」

彼はペコリと頭を下げた後、彼女を連れてその場から立ち去った。