恋なんていたしません!

「何をですか?」

そう聞き返したわたしに、
「田ノ下さんのことですよ」

一ノ瀬が答えた。

「ああ、昼休みに食堂で…」

わたしは首を縦に振ってうなずいた。

「驚きましたよ、あの子が結婚をしていたなんて」

そう言ったわたしに、
「僕もビックリしました。

でも伊勢谷くんの方はショックだろうな」

一ノ瀬が言い返したので、
「えっ?」

わたしは訳がわからなくて聞き返した。

何で伊勢谷さんはビックリじゃなくてショックなんだ?

「えっ…ああ、何でもないですよ」

一ノ瀬さんは驚いた顔をした後、首を横に振った。

いや、何でもなくないんですけれど…。

「じゃあ、仕事に戻りますね」

「あ、はい…」

一ノ瀬さんは逃げるように青果部の方へと向かった。