「あっ、野々村さん」

一ノ瀬が顔を出したかと思ったら声をかけてきた。

「こんばんわ」

わたしはあいさつをすると、手に持っている紙袋を差し出した。

「この間のりんごのお礼です」

そう言ったわたしに、
「えっ、いいんですか?」

一ノ瀬は驚いたと言うように聞き返してきた。

何だ、その反応は。

今日の仕事帰りにデパ地下へ行って1000円を出して買ってきたって言うのに。

「チョコレート、お嫌いでしたか?」

わたしは聞いた。

「いえ、大好きですよ。

そのつもりで不良品のりんごをあげた訳じゃないので、驚いちゃって…」

一ノ瀬は苦笑いをしながら答えた。