現実を見ろと言うその言葉を実行しようと言う訳ではない。

「あーあ、何でこんなものを買ってしまったのやら…」

わたしは手に持っている紙袋に視線を向けた。

紙袋の中には、先ほどデパ地下で買ってきたチョコレートが入っていた。

たかが不良品のりんごをいくつかくれただけなのに、何で4個入り800円のチョコレートをあげないといけないんだか。

ヨーロッパ地方では有名なショコラティエが丹精をこめて手作りした…って、どうでもいいな。

時間は夜の9時になろうとしているけど、どうせりんごのお礼として渡すだけだ。

そう思いながらわたしは一ノ瀬の部屋の前に立つと、チャイムを鳴らした。

「はーい、ただ今」

ドアの向こうから声が聞こえたかと思ったら、目の前のドアが開かれた。