恋なんていたしません!

「ただいまー」

家に帰ると、いつもの体操着に着替えた。

「未だに信じられないな…」

この壁1枚を隔てた距離に、あの一ノ瀬がいるなんて。

あいつのせいでせっかくの安全地帯が台無しだ。

この間の件は思わずカッとなって勢いでドアを開けてしまったけれど…クソッ、相手が一ノ瀬じゃなかったらドアなんか開けなかったのに!

「今度は何があってもドアを開けるものですか」

開けるのはもちろんのこと、この場所にだって1歩も入れてやるもんですか!

フンと鼻息を吐くと、壁に向かって中指を突き立てた。

例えこの身を犠牲にしても、この神聖とも言えるべき安全地帯を守ってみせるわ!

「ねえ、マサヤくん」

写真立てのマサヤくんに向かって、わたしは名前を呼んだ。