「じゃあ、行ってくるから。」
玄関で、靴ベラでピカピカに磨かれた靴を履きながら誠司さんは私に背を向けて言った。
「私、日中原稿進めておくので、帰ったらチェックしてもらってもいいですか?」
そう訊いて、カバンを誠司さんに渡しながら、何だかこれって新婚みたいで新鮮だと思った。
「ああ。わかった。」
「それから、カッターシャツ。今日からは買ってこなくていいですからね? 私、洗濯しますから。」
「それだと原稿に支障をきたすだろ?」
「どうせ私の洗濯物のついでですから。」
「そうか……じゃあ、任せる。」
「あ、あと、今日の夕飯何がいいですか? 私、作ります。」
「それこそ済ませてくるからいい。何ならお前の分のも弁当か何か買ってくるよ。」
……まったく、乙女心がわかってないな。
作ってあげたいって気持ち、察しろよ。鈍いな。鈍い。カタツムリくらい鈍い。



