「なんだ? ダメなのか? まさか、ガスか水道が止められてんのか?」
あんたのアパートじゃあるまいし、そんなことじゃない。
男の人と一つ屋根の下で一緒に暮らすなんて経験はないし、お風呂を貸したことももちろんない。
日々の疲れを洗い流す神聖な場所を他人に貸すことが、それも相手が男の人だと、例え好きでもない人であっても、意識してしまう。
「キリン?」
「あ、キリンはやめてください。」
「じゃあ、なんと呼べばいいんだ? 大木か? りんか? 大木先生は嫌だぞ?」
「……りんでいいです。」
いよいよ顔が紅潮していく。耳まで真っ赤になって、暗い夜道に役に立ちそうだ。
「そうか。なら、りんと呼ぶ。」
私は黙って頷いた。誠司さんは、脱衣所へスリッパをスタスタ音をさせて歩いて行った。



