「わかってます。でも、フリーの彼女がカミツレで書いていくには、邪道で希少なサスペンスしかないんです。」



「どうしてそう決めつけるのかしら?」



「それは……。」



「『エゴイスト』に惚れ込んでしまったから。そうでしょう?」



誠司さんはそれについては何も答えなかったらしい。でも、否定しないということは、そういうことなんだと思い、まるで愛の告白を受けたような気持ちで、恥ずかしかった。



「まあ、わからなくもないわね。『エゴイスト』。あれは本当に素晴らしい作品だわ。カミツレにサスペンスを持ち込む卵ちゃんは口を揃えて言うもの。『大木先生のようなサスペンスが書きたい。』って。」



この話は藤原からしょっちゅう聞かされていたが、別になんとも思わなかった。きっとそのわけは、私が『エゴイスト』が嫌いだからだと思う。



「でもね、作家が本当に書きたいものを書けないのは愚かじゃないかしら? 『エゴイスト』一つで、彼女の意見も聞かずに嫌々サスペンスを書かせる私たちこそ、出版社としての『エゴイスト』なのかもしれないじゃない?」



「……それで、どうすればいいんです?」