「藤原? あんた今、どこにいんの?」
電波が悪いのか、声が途切れてよく聞こえない。
「もしもし、藤原?」
「ああ、大木先生ですか。どうしたんです? こんな朝早くに。」
こんな朝早くにしては、藤原の奴も声が寝起きじゃない。
「あんたこそどうしたの? 今、どこにいるの?」
「今、新幹線です。ちょうど浜松駅を過ぎた辺りですかね。」
新幹線? はて、出張か何かだろうか。
「違うんですよ。実は、おふくろが急に倒れたらしく、病院に向かってるところなんですよ。犬の散歩中に倒れたって言うんで、多分熱中症かなって思うんですけど、まあ、詳しいことは言ってみないことには……。」
藤原はやけに冷静だった。犬の散歩ということは、きっと私が飼えなくなったトイプードルの散歩だろう。責任を感じる。
そして、藤原が取り乱していないことに感心した。頼もしくもあった。少なくともここにいるグロッキーなマーライオンよりはよっぽど頼もしい。
「そう。それじゃあ、よろしく伝えてちょうだい。」通話を切った。



