うっせえよ!






「本を読まないから読み書きろくにできない若者が多いんだろ? うちに来る実習生でもいるんだよ。スリーエーの患者のカルテの『嗄声』を指さして『これなんて読むんですか?』ってぬかしやがるんだ。」



「『嗄声』くらい大人でも読めないって。明美さんはともかく、そこにいる大木大先生もきっと嗄声って漢字、頭に浮かんでないさ。」



ムッとしたが、確かに誠司さんの言う通りだった。意味はわかる。でも、いざ漢字にするとなると、わからない。ちなみに、スリーエーの意味はまったくわからない。



「漢字が読めなくても、そこにいる大木先生はいい話書くだろ? それできっと笹川のような読者もいる。それでいいじゃないか。読みたい人だけ読めばいい。勉強と同じで強要しないほうがいい。」



そう言って、誠司さんはまたハイボールを一口啜った。明美は、ポカンと口を開けたまま、うっとりとしているように見えた。



気持ちはわかる。言葉の重みというか、誠司さんが出版業界の一線で活躍しているからだろうか。説得力があって、渋くて、かっこいいセリフだった。無理もないだろう。



かっこいい。そう思った瞬間、誠司さんが一瞬、かっこよく見えた。かっこいいと思ったのだから、そりゃ見ればかっこいいに決まっている。



でも、それがかえっておかしいのだ。誠司さんがかっこよく見えるなんて、ああ、きっと私は酔っているんだ。そういえば、昨日の分も加算されているのかもしれない。