明美は誠司さんと少し迷ったようだったが、最初の狙い通り、笹川さんに猛アタックしている。
サラダを取り分けたり、率先して注文を取ったりしている。普段、二人で飲みに行くと、私に押し付けるくせに。
それを見た笹川さんは「いやあ、明美さんは本当に気が利くね。」とすっかり騙されていて、誠司さんは「ほんとほんと。大きいキリン……あ、間違えた。大木さんとは大違いだね。」と違う意味で馬鹿。
こういう馬鹿な男がいるから、馬鹿な女が現れるんだと思う。大半の合コンは馬鹿製造工場で、でもそういう合コンは人間観察ができて、まるで社会科見学をしているような気分になる。
私はよく取材でいろんな人との飲みの席を設ける。そのため、常にボイスレコーダーを持ち歩くようにしている。今日も持ってきているが、いくら社会科見学とはいえ、必要ないかもしれない。
というか、早く帰りたい。今日の社会科見学は楽しいものではない。プロのカメラマンを前に、写真館の社長が知ったかぶりのうんちく垂れるのと同じかもしれない。
というのも、議題がなぜか、文学の話になったのだ。



