冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、パソコンを開いた。



ワードプロセッサーに並んだ活字を前に、この続きをどうしようかとアーロンチェアの背もたれに寄りかかって考える。



花の名社とは別の出版会社から依頼されている短編だ。



大震災直後に、倒壊した家を狙った空き巣ががれきの下敷きになっている少女と遭遇し、死に絶えていく少女を前にしても、何の感情も抱かずに金目の物を探すという話だ。



テーマがテーマだけに、重い。とてもルンルン気分の時に書けるものじゃなく、日常生活で嫌なことがあったときにまとめて書くスタンスで執筆している。



今夜はそんな気分だった。しかし、キーボードを打つ手は思うように動いてくれず、ミネラルウォーターばかりに手を伸ばしてしまう。