この夫婦と誠司さんが出会ったのは、誠司さんが大学4年の時だったらしい。
失恋をした誠司さんは、バイクで一人旅の途中、このリアス式海岸でガス欠を起こしてしまった。
それをたまたま軽トラで通りかかったおじさんが、バイクを荷台に乗せて、助けてくれたらしい。ついでに、食事までご馳走になったのだという。
それ以来、誠司さんは恩恵を感じ、一年に一度、ここに通うようになり、子供のいなかったおじさんたちも誠司さんを息子のように歓迎しているのだという。
「ほお、作家さんなんね。おばさん、てっきり誠司さんのお嫁さんか思ったわ。」
「はははっ。冗談やめてくださいよ。こんなの。」
まあ、愉快そうに、且つ乱暴に誠司さんは私の頭を左右に揺すった。死ね。
「その取材も兼ねて、釣りを教えてやってくれませんか?」
「はいはい。準備はできとるよ。うちの人も張りきっとって、朝からそわそわしっぱなしやったんよ。」
奥の倉庫から私たちの話を訊いていたらしいおじさんが「うっせえ! お前だって。」と叫んだ。最近の補聴器は優秀らしい。



