動かない私を察した誠司さんが、駆け寄ってきた。遅い。
「どうした? 来ないのか?」
何とまあ、ここまでデリカシーのない男なのか、柏原誠司。私は深いため息をついた。
「なんだ? 車酔いか?」
こいつには言葉にしないと伝わらないらしい。かと言って、露骨に「どうして私を紹介してくれないんですか!」と言うのもどうかと思い、泣く泣く、「あの方は?」とやんわり訊いた。
「ああ、俺の知り合いっていうか、命の恩人っていうか……そんなとこかな。」
「命の恩人……ですか?」
「そう。俺がまだバックパッカーしてた時代のな。ほら、こっち来いよ。紹介するから。」
私の興味は、あのおばさんが誰かということよりも、誠司さんがバックパッカーをしていたことにシフトしていた。
聞いたことのない、誠司さんの過去だ。



