「ヨシさん、ありがとね」

 もう何本目か分からない煙草に手をつけているヨシさんにそう言った。その様子はもうすっかりいつもの調子に戻っている。

 「たまには俺だってイイこと言うだろ?」

 子どものような無邪気な笑顔でヨシさんは言った。カッコいいな、と思った。

 「たまには、ね」

 「なんだよ、そこ強調しなくてもいいだろ別に」

 「だって、ほんとにたまには、じゃん」

 ヨシさんは僕のことをなんでも知ってる。僕が好きな食べ物が親父の手作りのビーフカレーだってことも知ってる。好きな本のジャンルは爽やかな青春ものってことも知ってる。好きな科目は国語で、嫌いな科目は生物だということも知ってる。


 そして、なぜ人付き合いを嫌うのかも、知ってる。


 僕のことを理解したうえで、心から相談に乗ってくれた。だからこそ、僕は決心をつけることができた。

 「いんだよ、別に。たまにイイこと言うくらいのほうがカッコいいだろが」

 取り出したままだった財布から本の代金を渡す。僕はまあ、そうだね、と生半可な返事をして受け取った本をバッグに入れた。そしてもう一度、強く心に誓う。


 僕は、僕を変えてみせる。