「私だって倉木くんは人間関係大嫌い生きる目的なし空っぽ野郎だって思ってる。でももしかしたらそうじゃない倉木くんがどこかにいるかもしれない。実はずっとフレンドリーで夢に向かって頑張っている倉木くんが本当の倉木くんかもしれない。そんなのどっちが本物かだなんて分かるのは本人だけでしょ」

 僕に言わせればどちらが僕でも構わなかった。柚木が思っている通りの僕が彼女にとっての僕なのだから、それを否定したりするつもりはない。良く思われていようが悪く思われていようが、それは僕が彼女に与えた印象の結果だ。

 「だから結局、どう思っていようが相手の勝手なんだよ。私のことを崇高な完璧主義者と思ってくれていても、正義のままに行動するヒーローだと思ってくれていても、どっちの私も私ではない。でも多分相手からすればそれが私なんだと思う。結局それってさ、どの私も私ってことになるじゃない?」

 最後だけなぜか疑問形で、同意を求めるような口調で言った。首をわずかに傾けている彼女はどうしようもなくくたびれているように見えた。