「一度形成された人間関係を壊すのは、そんなに難しいものなのか?」

 素朴な疑問だった。こう思ってしまうのは多分、僕が友達が少なくて人付き合いが苦手な人間だからだ。苦手と言うよりは嫌いと言ったほうが正しい気もするけれど、オブラートに包んでいたほうが聞こえがいい。

 振り返りもしなかったけれど、息を大きく吐いたのは分かった。ため息か、それとも深呼吸か。十中八九、前者だろう。

「倉木くんは根本的に勘違いしてる。私は人間関係を壊したいなんて一言も言ってないよ」

 背中で返事をする。顔が見えないと感情を捉えにくい。でも声色から察するに、少しの怒りを込めているように感じた。

 「それはおかしいよ。だって君は言ったじゃないか、面倒だって。疲れるとも言ったじゃないか。それだけ言っておいて人間関係を壊したくないって、それは矛盾しているよ」

 「その考えがおかしいじゃない。面倒だから嫌いだと決めつけるのは君の勝手な憶測に過ぎないでしょ。私は自分の生き方を嫌だと思ったことはない」