金木犀のエチュード──あなたしか見えない

音楽を続けてきて良かった、音楽に携わってきて良かったと思った。

私はある時期から教え子のヴァイオリン指導について、アランに相談し始めた。

再会した時、コンサートのスポンサーをしていることや、
周桜宗月の息子、「周桜詩月」の指導方法について悩んでいることを詳しく話した。

有名な父親と度々、比較され詩月はコンプレックスの塊で、我流によるヴァイオリン演奏の運指はデタラメだった。

なのに中学生にもかかわらず、詩月の演奏は大学で教えている学生達に引けをとらなかった。

どう指導するか、アランは真剣に考えてくれた。

私は毎回のレッスンを細かく日記に記し、アランに見せた。

日記からうかがえる詩月の心象と演奏から受ける印象にアランは戸惑っていた。

アランは詩月が孤独、悲嘆、不安、不信、屈辱……負の感情の中で喘いでいるようだと言った。