金木犀のエチュード──あなたしか見えない

彼のヴァイオリンは精細を欠き、幾つかのコンクールに出場するも、最終選考には残らなかったと、モルダウのマスターから聞かされた。

アランは気持ちを切り替え自身を奮い起たせ、挑んだヴァイオリンコンクールで、ようやく入賞し、帰国した。

聖諒学園大学卒業後、大学院へと進み、がむしゃらに音楽を学んだようだ。

自分にはないものが何なのか、何が足らないのか、何がいけないのかを懸命に模索しながら……。

「いつかまた『懐かしい土地の思い出』を弾きましょう」

アランと交わした約束が私にとっても励みだった。

私は自宅でヴァイオリン教室を開いた。

叶わぬ約束だと思いながら、音楽に携わっていれば、ヴァイオリンを弾いていれば、いつか約束は叶うと信じていた。

歳月は流れ、アランは弾く側から教える、指導する側になった。