「産んだのね。……失意の中で命を産み育てる決断をしたのね」

「ずいぶん悩まれたと聞いているし、詩月くんが体調を崩すたび、入退院を繰り返すたびに、自分の決断を問われて……だから詩月くんは自分の身体のことを頑なに話さないのかも」

「彼、ずいぶん色んなものを背負っているのね。ん……ファザコンでマザコン」

「小百合、あなたは!」

しんみりした話は苦手だ。

「ママ。日記、後でママの部屋に持っていくわね。それから……ママ。わたし、もう1度ヴァイオリンを始めたいんだけど……」

「えっ!?」

「お婆ちゃまの日記を読んでいたら、ヴァイオリンを弾きたくなったの。詩月くんみたいに自由に弾いてみたくなったの」

「お母さん、きっと喜ぶわ。お教室の手続きをしなくっちゃ」

母は満面の笑顔で部屋を出た。