金木犀のエチュード──あなたしか見えない

岩舘さんは続けて淡々と話した。

「まあ、幸いおふくろさんほど酷い腱鞘炎ではなくて、半年ほど治療とリハビリをすると言っていた」

半年も練習時間を制限されるのは長いし、辛いだろうなと思う。

しかもコンクールの調整時期、これから予選本選を勝ち進んでいくには、相当不利に違いない。

「ねえ、小百合。あのネコ……山下公園で時々ヴァイオリンを弾いているおじさんのネコではない? あのおじさん、指が少し不自由でヴァイオリン弾くのに苦労しているわよね」

「マジか」

岩舘さんが志津子の話に、目を見開き声を上げた。

「あの人はアランと言って、お婆ちゃまが学生時代にライバルだった人で……」

「間崎准教授だな」

「岩舘さん、知っているんですか?」

「貢が高1まで師事していた人だ、聖諒の音楽科でヴァイオリンを教えていた」