金木犀のエチュード──あなたしか見えない

辺りが静まり、安坂さんの声と詩月くんの喘ぐように荒い息遣いが響く。

「周桜?」

詩月くんのこめかみにじわり汗が滲み、顔色が失せていく。

「郁、保健室に知らせろ!」

安坂さんは詩月くんの背を擦る手を止めずに叫ぶ。

「安坂さんの叫びに、ただ事ではないのを悟り、緒方さんは慌てて食堂を駆け出ていった。

詩月くんはうずくまったまま、何か言おうと口を動かしていたけれど、喘ぎと咳で言葉は聞き取れない。

「お前、バカだろ。こいつが体弱いの知っているだろ? いくら咄嗟でも考えろよ」

安坂さんが険しい顔をし、生徒会長に怒鳴る。

「先に手を挙げたのは周桜……」

生徒会長は言いかけ、安坂さんの顔を見て、その険しさに言葉を嗣ぐんだ。

「それに、こいつが親の七光りだと本気で思っているとしたら、耳鼻科にいった方がいいぜ」