金木犀のエチュード──あなたしか見えない

「何を弾いても父と比較される悔しさが、お前にわかるのか? 練習しても練習しても、認められない辛さがわかるのか」

「落ち着け、周桜」

「思う存分、弾けない辛さが……練習時間を減らされる辛さがわかるのか」

「周桜……落ち着け」

「……周桜の名などいらない」

詩月くんは息を切らし咳き込みながら、ありったけの力で、抑えつける安坂さんらの手をふりほどいた。

「お前に何がわかるんだ!」

詩月くんは叫び、生徒会長目掛け右手の拳を振り上げた。

が、詩月くんの拳が生徒会長に届くより先に、生徒会長の拳が、詩月くんの鳩尾を直撃した。

「周桜!!」

安坂さんが素早く、詩月くんの体を支える。

詩月くんは殴られた鳩尾でなく、胸にきつく手を押し当て、崩れるようにうずくまった。

「おい!?……」