「知らないと言ってる……」

詩月くんは生徒会長の胸ぐらを掴み「学長室の前で黙っていろと、口止めしたはずだ。何故、噂を流した!?」

「何だ、やはり腱鞘炎だったか?」

生徒会長は笑っていた。

詩月くんの手に力がこもり、いつの間にか左手も生徒会長の胸ぐらを掴んでいた。

志津子が「普段は揉め事などには関わらないのに、声を荒らげることもあるのね」信じられないとでもいう口振りで言う。

緒方さんと安坂さんも立ち上がり、詩月くんの様子を窺っている。

「聞いてるのはこちらなんだがな。生徒会長」

詩月くんは静かに言って手を緩めた。

生徒会長は制服を正しながら、詩月くんを睨み返した。

「親が有名なピアニストだと、街頭で派手なパフォーマンスをしても、何ら咎められもしないし、行事のたびに何かと目をかけてもらえる。大した演奏をしなくても関係者の注目を得られる」