金木犀のエチュード──あなたしか見えない

「それで、お婆ちゃまは彼がレッスンの時『懐かしい土地の思い出』を弾いていたんですね」

「彼の『懐かしい土地の思い出』はリリィの演奏に似ている。リリィの演奏姿が浮かぶほどにね。試験はどうだったのかね?」

アランは深い傷のある右手を丁寧に擦りながら、わたしの目を見て話す。

ケロイド化し、ひきつった傷は、まだ痛むのかもしれない。

「受験のピアノの課題曲はショパンの『革命のエチュード』で、暴動が見えるほどの迫力でした。中盤まではノーミスだったみたいですけど、終盤に数小節乱れたけれどなんとか持ち直して……ショパンは苦手だと聞いていたのに、驚きました」

アランは深く頷き「数小節乱れた」というところで、一瞬顔を強張らせた。

「でも自由曲は鳥肌が立ちました。彼『ラ・カンパネッラ』3番変イ短調を弾いたんです」

アランの顔色が変わった。