金木犀のエチュード──あなたしか見えない

噴水の側に初老の男性が腰掛けていた。

「アラン……」

彼はわたしの声に気づいて顔を上げ、穏やかに笑った。

「彼はどうしている?」

わたしはアランの隣に座り「元気にしているみたいです」と答えた。

「受験やテストもあって、それに詩月くんはコンクールの準備で忙しそうで、会えていないんです。それにわたし音楽科ではないので」

アランは「何故」と目で訴えている。

「幼い頃に詩月くんのヴァイオリン演奏を聴いて、こんなに上手く弾けても毎回泣くほど叱られるんだと思うと、とても習う気にはならなかったので……ピアノが少し弾けるくらいです」

「それは残念だ。詩月はリリィに習うまで我流で弾いていた癖がなかなか治らない。リリィはずいぶん苦労したようだ。それに彼は思うように弾けないと弾けるまで弾こうとして、泣き出してしまって宥めるのが大変だったとか」