金木犀のエチュード──あなたしか見えない

とくにピアノ実技の自由曲に、リスト作曲『パガニーニによる超絶技巧練習曲』第3番変イ短調「ラ・カンパネッラ」をノーミスで、完璧に弾いたことで、「さすがは周桜宗月の息子だ」と、羨望と期待を浴びている。

内部受験の数日後、期末テストが行われた。

詩月くんはピアノ実技の課題曲ベートーベンの「熱情」を完璧に演奏し、演奏後「源義経の栄光と波乱に満ちた生涯に似ている」と指を擦りながらコメントしたと聞いた。

ヴァイオリン実技ではエントリーシートに記入した課題曲サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」ではなく、フォーレの「夢のあとに」を叙情的に弾き、終盤にはアレンジを加え「宵待ち草」と「荒城の月」を入れこんで演奏したことが、カフェ・モルダウで話題になっていた。

「宵待ち草」と聞き、山下公園の拙いヴァイオリン演奏を思い出した。

志津子とモルダウを出て別れた後、1度自宅に戻り着替えて山下公園に行った。