「そんな状態で、この演奏……」

志津子はまだ信じられない様子で眉間に皺を寄せて、頑張ってと胸の前で手を合わせる。

――お婆ちゃま、詩月くんを守って

心の中で祈る。

降り注ぐような鐘の音が心配も不安も癒やしていく。

「こんなにスゴい弾き手だったなんて。わたし、彼の追っかけ2年以上やっているのに、ここまでとは思わなかった」

「あの熱では、とても演奏できる状態ではないはずなのに必死で弾いてるの。『何がなんでも弾き通してやる、鐘を鳴らしてやる』って。何語だか知らないけれど『No importa lo que Nase』って言った気がする」

志津子の目は赤くなり、何か言いたげにしたけれど言葉にならなかった。

わたしは胸の前で十字架を切り、真剣に祈った。

――詩月くん、頑張って。最後までどうか……響け、鐘の音!