「小百合。あなた、お母さんの部屋から詩月くんのヴァイオリン指導日記を持ち出しているでしょう?」

「あ……もう少し、読んでみたいの。彼が追悼に弾いた演奏がすごく素敵で、彼のことを詳しく知りたいの」

「そう、読むのは構わないけれど丁寧に扱ってね。あの日記は私たちが持っていても何の役にも立たないから、詩月くんにあげようと思っているの」

周桜詩月の「宵待草」を聴いて以来、彼の街頭演奏を数日続けて聴きに行っている。

永山さんのリサーチを聞き、自分自身の勘も頼りに出掛け、追っかけと言われる存在もいるのを知った。

「宵待草」を聴いた翌々日、永山さんが「昨日、周桜くんがモルダウでピアノを弾いたのに」と教えてくれた。

「カウンター席に座っていた黒い服づくめのダンディーな男性が、弾き終えた後に彼に話しかけていたけれど、聞き取れなかったわ」