金木犀のエチュード──あなたしか見えない

「わたし、ヴァイオリンをまた習い始めたんです」

「詩月の影響かな」

「ええ。長い間、弾いていないから『スズキシノザキ』からなんですけど、楽しいです」

「君と競争だな。どちらが先に『懐かしい土地の思い出』を弾けるようになるのか」

「負けませんよ」

わたしが答えたかと思うと、白いネコがアランの腕から勢いよく抜け出し、駆け出していった。

咄嗟に、追いかけようと足を踏み出した時、掠れぎみの細い声が「MOON」と、呼んだ。

えっ? と思い、声のした方へ目を凝らすと、白いネコを抱きかかえた詩月くんの姿が見えた。

ああ、そうかーーあのネコをMOONと呼んでいたのはお婆ちゃまと詩月くんだったんだと、思い出して笑みがこぼれた。

こちらに近づいてきた詩月くんから、微かに甘い香りがした。

肩にオレンジ色の小さな花びらが着いている。

たしか、学園に金木犀が咲いていた。