赤みがかった茶色と光沢のある胴体ーーため息が漏れた。

ヴァイオリンを手にとった詩月くんが「グルネリ」とため息混じりに、声を上げた。

ーーお婆ちゃまがアランに贈ったヴァイオリンだ

即座に思った。

詩月くんはヴァイオリンを素早く調弦し、演奏し始めた。

今しがた演奏した「懐かしい土地の思い出」がロビーに響き渡る。

哀愁漂う調べなのに、先ほどの演奏とはどこか違っていた。

悲しみも憂いも吹き払われた清々しさを感じた。

お婆ちゃまの演奏を感じさせた先ほどの演奏よりも、胸の奥が温かかった。

扉の向こうではまだ、最終奏者の演奏が行われている最中だ。

だが、警備員も詩月くんの演奏を咎める様子もない。

詩月くんの演奏に、ロビーにいる人たちが振り返り立ち止まって、詩月くんを見つめている。

詩月くんはそれに答えるように、演奏を続けた。

詩月くんの「懐かしい土地の思い出」がロビーを優しく包みこんでいた。