詩月くんが舞台袖に引き上げても、歓声は続いた。

次の演奏者のアナウンスが行われたが、鳴り止まない歓声と拍手でそれさえも掻き消された。

詩月くんは演奏を終えてどうしているだろう? そう思うと居ても立ってもいられなかった。

気づくと、すくっと立ち上がり出口に向かって駆け出していた。

扉を開けて、通路に出ると、詩月くんが安坂さんに支えられ、ロビーに出てくるのが見えた。

渾身の演奏で疲れきった様子の詩月くんは、安坂さんが支えていなければ立っているのさえやっとのように感じた。

わたしが「詩月くん!」と呼ぼうとした時、アランが詩月くんに近づいていった。

アランは黒革のヴァイオリンケースを抱えていた。

アランは詩月くんと数分、話した後、詩月くんに黒革のヴァイオリンケースを開けてヴァイオリンを差し出した。

遠目にも高価な楽器だと判るヴァイオリンに目を凝らす。