連れの彼女は高級食材

 プロローグ

ここは帝国の北部に位置する地方都市カラトス。南に広がる平原と、北の森林に挟まれる形で存在している。
畜産を主とするこの町では過疎化が進み、閑散としたもの悲しい雰囲気が町全体を包んでいる。
俺はそんな静かな街の酒場で一人、酒を飲んでいた。
昼間は見ているだけでもセンチメンタルになるほど寂れた酒場だが、夜になるといくらか賑わいを取り戻す。
陽の昇っている昼間よりもなぜだかほっこりと暖かい空気で満ち、次第に明るい笑い声が灯っていく。
俺がこの街に来たての頃は、殺伐とした空気を好んで気取っていたが今は逆だ。人肌がすっかり恋しくなってしまった。
俺は昔から人付き合いが苦手だったから、今も、仕事では割とストレスが溜まる。
最近ではそのストレスも、すっかり酒で流し込むことが癖になってしまったが。
チリリン、と鈴が鳴って古びたドアが開くと、大柄な男がぬうっと姿を現した。縦横に伸びた幅広いその体躯は圧倒的な重量感を誇っている。
彼の名はアイン。見ため通りの豪放な性格で、どんな話題を振られても、最終的には豪快に笑い飛ばしてしまうような、そんな男だ。
アインは酒場の隅に座る俺を見付けると、ドカドカと歩み寄り、テーブル越しの椅子に腰掛けた。彼が座った衝撃で、テーブルの上の料理がもれなく垂直にジャンプする。
「お前、今椅子メギョッていったぞ、大丈夫なのか?それ」
俺が呆れ半分、心配半分でアインに問うと、
「バカ野郎、酒場の椅子はそんなにヤワじゃねぇ」
と、アインはあごひげをジョリジョリと擦りながら笑みを浮かべた。
それから少しばかり世間話をしていたが、話は、俺が過去に何をしていたか、ということに移った。
 俺は凄惨な自らの過去を他人に打ち明けることを躊躇ったが、アインがもったい付けずに早く喋れとせかすので、俺は仕方なく己の過去について語り出した。
「あれは今から十年も前のことだ……」
俺は酔った勢いもあいまって饒舌に口を動かし始める。
本当は誰にも明かせないような過去なのだが、アインにならば話してしまっても良い、何故だかそんな気がした。