空泥棒

「なんでって…、写真を、撮りたいんです。」

私の言葉を聞いて、彼は納得がいったような顔になったが、少し怪訝な顔をした。

「その高そうなカメラ、本当にお前の?」

…な、なんなんだこの人は本当に!
いきなり現れた、名前も知らない人になんでこんなこと言われないといけないの。せっかくの時間が台無しになる。いや、もう台無しだ。

わたしは何も言わずに彼に背を向けて、自転車の方に向かって走った。逃げたと思われてもいい。彼がいない場所に行きたかった。

元いた河川敷まで来たところで、サドルに手を付いて立ち止まった。肩で息をしながら、鞄に入っている水筒をとりだす。

「っはぁ…はあ…しんど……」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない………。」

ふと疑問を覚えて、後ろを振り返った。