空泥棒

「そんなことでいいの?」

今度は、わたしがきょとんとなった。

「俺、もっとお金とか要求されるのかと思ったよ」
「え、写真撮るだけだよね?」
「うん」
「それになんでお金がいるの?」
「いらない?」
「いらない。条件さえ飲んでくれれば。」
「もちろん。」

変な人だ。
こんな無口で無愛想で可愛げがないぼっち野郎にこんなに話しかけて、お願いまでしてきて。

と、聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。

「もう5時だ。」

わたしは立ち上がってスカートの草をはらうと、

「え、もう帰るの?」

と、要はびっくりした様子で私を見上げた。

いやいや、確かに門限は少し早いかもしれないけど、冬は暗くなるのが早いから仕方ないじゃん。

「うん。暗くなるから、早く帰りなよ。」
「わかった、またね」

手を振る彼を横目に、きぃ、とペダルをこいだ。

「明後日、ここでまってるから」

彼の声が、後ろから聞こえた気がした。